暮らしを届ける「今日の一枚」。今回は、高知県嶺北地域・土佐町に移住した鳥山百合子さんとご家族の、とある先日の出来事をお話いただきます。

5年前に土佐町に引越してきた時、5歳だった娘が、小学校4年生になりました。以前は喜んで田んぼや畑へついてきましたが、成長するにつれ「今日はいいや」「家にいる」と言うようになりました。

今年も稲刈りの時期になり、最初は「行かない」と言っていた娘でしたが、長靴を履き軍手をして後から追いかけてきたのです。娘は刈った稲を「はぜ」にかけて干し、雨が降っても大丈夫なようにビニールをかけるのを最後まで手伝ってくれて本当に助かりました。もう一人前の働き手です。稲をはぜに干している時、娘がふと言いました。

「母さん、うまく言えないけど……田んぼって、やっぱり楽しいね」。

その言葉を聞いた時、土佐町に来た意味があった、と胸にこみあげてくるものがありました。私は、子ども時代を田んぼや畑で遊んで過ごしました。湧き水に指を入れ、どうしてここから水が湧いてくるのか考えていたこと、とうもろこし畑に入り込んで見えなくなったお友達を、足音を頼りに迷路のような畑のなかを探して歩いたこと……。

それは本当に楽しかった大切な思い出であり、あの頃の私は、幼いながら自然への畏敬の念も確かに感じて過ごしていたのだと、今はっきりとわかるのです。今も私のなかに在るその風景が、いつも私を支え続けてきてくれました。

小さかった時に遊んだことや感じていたこと、そして毎日の暮らしにあるさりげない出来事が、きっとそのひとにとっての土台になり、心の原風景になるのだと思います。娘も、今、土佐町での暮らしのなかで心の原風景を育てているのだなと思うと、目の前にある一つひとつの出来事や思いをこれからも大切に、積み重ねてゆけたらと思っています。

裸足で泥んこになって駆け回ることができる田んぼ、川の流れの音、黄金色の田んぼの上をきらきらしながら飛んでいるとんぼ、「あれが天の川やね」と見上げる夜空、手をつないだ影を映し出してくれる月あかり……。この地の大自然が、きっと子どもたちの心の原風景をつくる手助けをしてくれると私は信じています。

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高知県嶺北・土佐町のこと

土佐町の暮らしを知る「今日の一枚」